スポーツのあなぐら

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【再掲】日本ハムドラフトの「不都合な」現実

ニコニコブロマガ内容を再構成した。

 


日本ハムのドラフト、育成戦略は各メディアで取り上げられることが多い。
これが実際に優勝、Aクラスが多い実績によるものなのは言うまでもないが、
ドラフトで高校生を多く獲りスタメンに名を連ねていることも大きいと思われる。
もし大学生や社会人出身が多ければ成績が同じでもこうはいかないだろうし、
場合によっては酷評すらされるだろう。

実際日本ハムの戦略は非常に面白いものだと思うのだが、
一方で取り上げられることのない部分が多い。
そんなわけで今回はその今まで取り上げられることが少なかった
「不都合な部分」について述べていこう。
しかし先に書いておくが、
今回述べる日本ハムの戦略が意図的なものだったとしても
今回の内容は書かれたところで「日本ハムにとっては何一つ不都合なことなどない」と思う。
他球団がすでに気づいている可能性は高いだろうし、
その同じ戦略をとるための具体的な手段(BOSシステムによる評価方法や
具体的な育成手法など)を解明できているわけではなく
この点において日本ハムの優位性が崩れるわけでもないからだ。
なら誰にとって不都合なのか?
これはおいおい説明することにして本題に入ろう。

指名される野手の出自と起用

日本ハムのドラフトは指名される野手にとにかく高校生が多く、
その傾向は2010年以降顕著にみられるようになった。
指名された26人中、高校生は21人にものぼっている。
またその一軍起用も比較的早く、
現在のレギュラークラスでは西川遥輝や近藤健介がそれぞれ2年目、3年目と
早い段階で一軍に定着している。

さてここまでだけを見て
「他のチームも見習ってとにかく高校生を獲れ、優先的に一軍で抜擢しろ」
というのが日本ハムを取り上げる際の定番の主張である。
しかし日本ハムの戦略はそんな単純かつ観念的なものではない。

指名される野手のポジション

先ほど挙げた選手のうち、
2010~15年までに指名された選手のポジションを見ると、
全25人中キャッチャー、ショート、センターが19人。全体の76%を占めている。
この3つはいずれも他ポジションからのコンバートが難しい反面、
打撃が伸びた際には他ポジションへのコンバートを行いやすい守備位置である。
実際、陽岱鋼のような外野にコンバートされるケースもあれば、
近藤のようにキャッチャーからサード、ライトといくつものポジションにつくこともある。

しかしこれらのポジションを優先的に指名すること自体は
日本ハム以外にもいくつかのチームが行っており目新しいものではない。
もっと重要なのはこの3つ以外のポジションの選手たちである。
ファーストの岡大海は元々投手との二刀流だった選手だが
プロ入り後は身体能力を生かしてのセンターやライトが多く、
レフトの岸里亮祐も同じく高校時代は投手兼任、
平沼翔太はショートにコンバートされた。
サードの宇佐見塁大はやや例外でプロ入り後も一、三塁が多かった。
何と言っても異色なのがライトの西川で、一軍ではしばらくセカンドだった*1
ちなみにこのような外野手のプロ入り後の内野コンバートはドラフト評論家から
常に酷評される対象(川上竜平や上林誠知など)だったのだが、
なぜか西川に限っては全く批判されることがなかった。
昨年の増田珠にも批判は聞かれないが、どういう教義の変化があったのだろう。

このように日本ハムは徹底的にセンターラインにこだわっていたことがわかる。
早く一軍で抜擢できるのも一軍のベテラン・中堅選手を排除するのではなく、
空いたところを埋められるユーティリティを獲得・育成しているからなのだ。

では日本ハムと近年似たような手法をとっていたチームはどこか。
日本ハム以上にキャッチャー、ショート、センターに本指名が集中していたチームは
4チーム(70%以上なら8チーム)あるのだが、
この4チームにはセンターがやけに多い阪神
育成枠で他にも大量指名しているソフトバンクもあるため単純には比べられない。
そして上述の点を考慮しサードの宇佐見、横尾以外もすべて同じ枠内に分類した場合、
このユーティリティ要員に日本ハム並にこだわっていたチームは
ヤクルトということになる(2015年までの全20人中実に19人)。
他にも数年にわたってこれに近いバランスでの指名をしていたチームとしては
2009~12年頃のロッテ、2010~12年頃のオリックスなどもあげられる。
もうお気づきだろう。こうして見ると似ているチームの大半が
大学・社会人野手を中心に指名し酷評されていたチームなのである。

つまり日本ハムの手法は
ユーティリティになりうる即戦力を大量に獲得するという
旧来なら大学・社会人主体で行なわれていた戦略を
高校生中心にしたものであることがわかる。
要はBOSシステムなどを用いた即戦力になりうる高校生野手の発掘方法と
彼らの育成手法を作り出した結果が現在の日本ハムと言えるわけだ。
当然ながらその根底には「チームの主力は高卒、大社はあくまで脇役」などという
ドラフト評論に根強く残る固定観念は存在していない。
出自は関係なく主力級に成長すれば主力として起用し、
準主力級ならチーム事情に合わせて併用するということだろう。
「不都合な」部分、それは日本ハムの指名をほめる際に用いられる
「他のチームも見習ってとにかく高校生を獲れ、優先的に一軍で抜擢しろ」ではなく
「最初から一軍で起用しやすい選手を獲得、育成している」という点である。

指名選手の値段

さて次に説明しなければならないのは値段についてである。
日本ハムドラフトの特徴2つめ、それは安いことだ。
高校生を獲っているんだから当たり前だろうと思うかもしれないがそうではない。
同じ高卒野手と比べてもこのチームはとにかく安いのだ。

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高卒野手の場合、ここ10年で限度額の10,000-1,500になったのは清宮1人、
二刀流を加えれば大谷翔平と2人だけである。
7球団競合なら当然といったところか。
一方で外れ1巡ともなれば契約金額はさらに安くなっていくものではあるが、
2013年の渡邉がこの10年の全チームで最も少ない金額になっている。
ちなみに渡邉に次いで安かったのは渡邉と同じ

外れ外れ外れ1位の後藤駿太と外れ外れ1位だった高橋大樹の2人。

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続いて2位。
10年間の2位最安値は森本で、ここは3位との連続指名だったことが大きいと思われる。
同じく2015年に連続指名だった廣岡大志は3位の高橋奎二と同額(5,000-600)だった。
他のチームだと6,000~7,000-700~720の範囲に収まることが多い。

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3位は何度か書いたように2013年以降が5,000-600に固定されていて、
異なるのは淺間と石垣雅海だけ。
石垣は5,000-540とそこまで極端な差ではないので
淺間の値段の安さが際立っている。
なお昨年3位指名の田中瑛斗も淺間と同額だった。
4位もまた相場が概ね4,000-500~600となっているため、
平沼の安値が目立つ形になっている。
ただしこの2年間は広島が坂倉将吾、永井敦士を3,500-500にとどめているため、
難波の金額がそれよりも若干高かったことになる。

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近年日本ハムは5・6位で高卒野手を指名していないため比較が難しい。
金額もチームや年によってばらつきが大きく、
特に昨年は同じ6位の西浦颯大(3,000-480)と綱島龍生(1,500-500)で
極端な違いが出た。

以上6位まで見てみたが、
日本ハムの指名する高卒野手は基本的に安いのがおわかりいただけたかと思う。
どうも見ていると、
日本ハムは全体の相場よりも若干金額を抑える反面、
逆に他のチームは日本ハムが作った相場よりあえて少し増額する、
そうした慣習が既に球界の中で作られているようにすら感じられる。
日本ハムからすれば抑えた分の金額は一軍での活躍で取り返せというところだろうか。
おそらく交渉の際にも細かい条件や他球団との金額の違い等は
しっかり選手に提示しているのだろう。
また清宮や大谷以外にも1位入札から獲得できた選手には
しっかり相場通りの金額を支払っており、
そのへんの額は不当に抑えているわけではない。

このように日本ハムのドラフト指名選手は他チームの同順位選手より
契約金・年俸が低く抑えられていることがわかった。
この内容も、他チームやプロ入りする選手たちには既に知られているだろう。
しかしやはり日本ハムが何らかの記事で取り上げられた場合には
全く注目されることのない部分でもある。
「不都合な」部分の2つ目、それは
「高校生を指名しているから安く済む」ではなく
「同じ高校生でも他のチームより安くなっている」である。

高校生でも投手は少ない日本ハム

日本ハム投手陣の特徴は広島と多少似ていて、
そのイメージに反して主力に高卒が少ないことだ。
ダルビッシュ有大谷翔平と高卒スーパーエースがいたので気づかない人も多いだろうが、
2016年のハム投手陣で主力と言える大谷以外の高卒は
20試合に先発した吉川光夫しかおらず、
2014年に規定回に達した上沢が登板できなかったことを考慮してもかなり少ない。

日本ハムの場合はそもそも高校生投手の指名が少ない。
2008~15年の8年間での高校生投手7人は全チームで2位タイの少なさ。
1位で3人の抽選を外したとはいえ指名率は全投手中21.9%で、
2010年以降にまで絞ると大谷以外は上沢直之、石川直也、立田将太のみとなる。
他のチームに先に指名されたということもあるのだろうが、
ハムにとっては投打ともに高校生と大学・社会人のバランスなどというものには
全くこだわっていない様子が見てとれる。
これが「不都合な」部分の3番目ということになる。
ダルビッシュ、大谷、吉川、上沢だけを見せて投手も高校生偏重のような
イメージを作り出そうとする人たちは少なからずいるのだが、
現実はむしろ彼らのほうが希少性の高い存在なのだ。

まとめ

今回紹介した日本ハムドラフトの戦略をまとめるとこうなる。
「即戦力に近い高校生野手を他より安い金額で獲得し、短期間で育成して戦力にする」
「投手は高校生を無理には獲らない」
そこには「チームの主力は高卒、大社はあくまで脇役」といった固定観念
「高校生を獲って優先的に一軍で起用すべき」といった教義も存在しない。
あくまでチームの中で戦力として使える選手だからこそ一軍で使う、
その戦力になりやすい選手を獲得する、
それを安くできるなら可能な限り安く、
この方針が徹底しているのが日本ハムの野手戦略なのである。

高校生を獲得する最大のメリットは大学・社会人出身選手がアマ時代に稼ぐであろう利得を
彼らより先にプロで稼いでもらうことにある。
高卒で指名しても大卒・社会人より一軍で活躍する年齢が遅くなっては、
せっかく高校の時点で指名した意味があまりなくなってしまうのだ。
そういう意味では、日本ハムのドラフト戦略は
非常に合理的な発想に基いたものと言えるだろう。
また高校生を指名しさえすれば、
世間一般や評論家は「自分にとって不都合な」点を忘れつつただもてはやしてくれる。
このような風潮を利用しているからこそ、
日本ハムは批判を浴びることなく他にも数々の実験ができているのかもしれない。

*1:高校時代に内野から外野へ回った選手ではあるが