スポーツのあなぐら

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成功とは言い難いが「成功している」ドラフト戦略

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ドラフトには失敗がつきもの

ドラフトには成功もあれば失敗もある。
指名当時は大成功と言われても、
数年後に結果を見れば大失敗、というケースも珍しくはない。
そして同じような路線戦略を数年続けた場合は、
この戦略自体が成功か失敗かが判断され、
失敗の場合は大いに叩かれることになる。
ためしに最近のドラフトで失敗とされることが多い路線をいくつか挙げてみよう。

  • 中日の社会人野手路線
  • オリックスの社会人主体指名
  • ヤクルトの大学・社会人「独自枠」指名
  • ロッテの即戦力路線

改めて見ると
やけに社会人路線への批判が多い気もするが、
即戦力路線はその成否が早い*1段階で出てしまう上に、
日本では「社会人指名=悪」と言っていいほどのアレルギーがあるのも
原因だろう。
他には阪神や2012年以降の巨人などのように、
どんな指名をしてどんな結果が出たとしても失敗扱いされるパターンもある。
これは指名内容以上にチームそのものへのヘイトが理由か。

破綻しかけているのにそうは言われない戦略

ここまでは誰もが言っているであろう話。
ところが、どう見てもうまくいっているとは言えない、
失敗しているとすら言える状況なのに
なぜか誰も失敗しているとは言わない、
それどころか大成功と持ち上げられている戦略もある。
に挙げた横浜のマルハ末期ドラフト(1997~2001年)は最たる例だが、
ここでは2008年以降の指名で気づいた例をいくつか挙げてみよう。

西武上位投手

西武の場合は、
「上位で指名した投手が伸びない」ことよりも
「上位での野手指名が少ない」ことを叩かれることのほうが多いが、
現実のチームにとって厄介な点はむしろこっちだろう。
3位で野手を指名する戦略は驚くほどうまくいっているのに、
1~2位で獲得した投手が悲惨な状況である。
それも、高校生・大学生・社会人関係なく万遍なく良くない。
加えて3位以下の投手も輪をかけて成功率が低く、
育つのも全体的に遅い、
育てば育ったでFA移籍してしまう、
と悪循環が続いている。
上位指名の場合も素材型に偏った指名が多く、
完成度が本当に高かったのは牧田和久ぐらい。
野上亮磨、十亀剣増田達至の社会人組は早く育ったが、
高卒と大卒は指名からの伸び悩みもかなりのものになってしまっている。
菊地雄星も毎年どこか故障を抱え1年通して投げられないことが多かった。

ソフトバンク高校生投手

高校生投手は大量指名した中からエース格が1人出れば
残り全員が失敗しても成功と言われる風習がある。
なので武田翔太と千賀滉大がいるホークスの高校生投手は大成功扱いされているが、
この2人だけで先発ローテもリリーフも回るわけはない。
現状ではそれ以外に1度でも戦力になったのが
二保旭と松本裕樹しかおらず、
高校生投手以外をほとんど指名していないのだから、
むしろ大失敗の部類と言っていいはずなのだ。
武田のように完成度が高めの高卒投手を多く指名できていればまだ良かったのだが、
故障持ちや完成度の低い素材偏重の指名が多いので、
今年のようにずっとチームを支えてきたサファテらがいなくなると
あっという間に戦力が枯渇してしまう。
現首脳陣の投手起用は前時代的な起用も目立ち批判されることが多いが、
「じゃあ代わりにだれを使うんだよ」と言われたら
正直なところ答えようがないというのも現実である。
ある意味今後の試金石にできるのは、
JR九州からドラフト1位でプロ入りしたものの
これまではあまり活躍できていなかったが、
今年は不調の多いリリーフ陣の中で安定した内容を残している加治屋蓮か。
彼が今年5年目の27歳。
高卒の二保旭も一軍に出てきたのが7年目の25歳*2なので、
この25~27歳あたりまで待つ必要があるということかもしれない。
再び高卒偏重路線になった2014年指名の選手だとあと3年以上後になる。
もっとも、ここからさらに大成する高卒投手は歴史的にもあまりいない*3し、
大卒2年目社会人の1~3年目と同学年でようやく一軍、
しかも出てくるのは1~2年に1人*4という事実からは、
高卒時点で獲得したメリットが何一つ見えてこないのだが。
金満球団だからこそできる戦略で、
金のないチームはこれをやると暗黒期まっしぐらである。
というか実際に横浜や広島はこれで長期低迷を余儀なくされたが、
ドラフト評論の世界では高校生を獲ればどんな結果でも「大成功」なのだ。

楽天の高校生投手

今年4月は打線が絶不調に陥っていたので
野手の上位指名が多くなかったことばかりやり玉にあげられそうだ。
だが数少ない上位指名も中川大志、西田哲朗、内田靖人、オコエ瑠偉、吉持亮汰と
現状では軒並み躓いているのだから、
上位指名が多ければ何とかなっていたと考えるのは淡い妄想にすぎない。
それよりもむしろ深刻なのは上位指名の高卒投手だろう。
森雄大、安樂智大、小野郁は故障などもあってほとんど戦力になっておらず、
松井裕樹は四球が多く隔年で調子が上下する不安定さがある。
高校生の目玉投手を毎年獲得したわりには
制球難に陥る選手がやけに目立つ印象である。
こういう指名を繰り返した楽天フロントは以前、
「大物になるのは高卒投手」と述べていたことがある。
データも重視する楽天だけに、
ただの高卒好きから高校生を押し付けてくるドラフト評論家とは
同じ言葉でも意味は全く異なる。
おそらくイニング数を重視する現在の投手指標からそう判断したのだろうが、
少なくとも当時の楽天フロントは、
「時代による投手起用の変化」と、
「投手起用を決めるのは人間」という事実を見落としていたように思う。

日本ハム高校生野手

獲ったのが高校生ばかりなので大成功扱いされているが、
現在の日本ハムは野手の育成にかなり苦戦を強いられている。
実際に育ったのが内野からコンバートした外野手ばかりで、
ファースト以外の内野手の育成がうまくいかない、
長打力が慢性的に不足する、などのマイナス部分も多かった。
そのマイナス点をレアード、アルシアなどの外国人、
大田泰示大引啓次といったトレード、
出戻りの田中賢介などでまかなってきたのが現状だ。
なぜかマネー・ボール出版後のアスレチックスを思い出す陣容である。
特に盛んに成功扱いされている上位指名選手が、西川遥輝を除くと
今年かなり使われている清水優心と昨年奮闘した松本剛ぐらいで、
しかもこの2人の伸びもそれほど良いとは言えない。
3位以下は中島卓也杉谷拳士、近藤健介あたりが目立つ程度、
彼らもまた打撃の伸び悩みや故障癖など不安点が多い。
全体的に代走・守備要員は何とかなっている印象で、
ベテランが配置されやすい代走・守備要員を安い若手で担う戦略ととらえると、
近年研究が進んでいる走力・守備範囲のピーク年齢をうまく反映させた
斬新な戦略にも見えてくる。
しかし打力を必要とする主力選手がほとんど出てこない。
バッティングがどの選手も伸びてきておらず、
二軍を見るととにかく三振が多く四死球が少ない。
四死球を選んでいる選手が一軍で通用するかと言えばそういうわけではないのだが、
1年目の清宮幸太郎がこの点では他の二軍選手をやや上回っていて、
清宮のすごさというべきなのか、
育成のふがいなさというべきなのかわからない状況である。
大成が3~4年目の中田翔、6年目の陽仲寿らのファーム時代と比べると
余計にそう見えてしまうのだ。

*1:「人の記憶がまだ残っているうちに」と言い換えてもいい

*2:ただし1年活躍した後2年間離脱したが

*3:斉藤和巳友利結など歴代の球界全体でもごく一部しかいない

*4:2008~11年の4年間で出てきたのは武田、千賀、二保の3人しかいない